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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)200号 判決

第一審原告(当審昭二六(ネ)第一九三号事件控訴人・同同(ネ)第二〇〇号事件被控訴人)・(原審昭二二(ワ)第一〇号事件原告・同昭二三(ワ)第一号事件被告) 角田なゝ江

第一審被告(当審昭二六(ネ)一九三号事件被控訴人・同同(ネ)第二〇〇号事件控訴人)・(原審昭二二(ワ)第一〇号事件被告・同昭二三(ワ)第一号事件原告) マコト商工株式会社

主文

原判決を次のとおりに変更する。

第一審被告(マコト商工株式会社)が、飯田市銀座四丁目一番及び同市本町一丁目二十六番宅地の内後者の宅地の北西側隣地との境界線と、同市知久町通りと同市本町通りとの境界をなす溝川の北東岸との交叉点を基点(ヤ)点とし同点から方位南東五十四度距離十四尺の地点を(マ)点とし、同点から方位北東三十六度距離二十四尺の地点を(コ)点とし、同点から方位南東五十四度距離十二尺の地点を(フ)点とし、同点から方位北東三十六度距離十九尺の地点を(ヱ)点とし、同点から方位南東五十四度距離八尺の地点を(カ)点とし、同点から同方位距離十八尺の地点を(ワ)点とし、同点から方位北東三十六度距離二十一尺の地点を(ハ)点とし、同点から方位北西五十四度距離十八尺の地点を(ホ)点とし、同点から同方位距離二十三尺九寸の地点を(ヰ)点とし、同点から方位南西二十一度距離六尺九寸の地点を(ノ)点とし、同点から方位南西三十六度距離十二尺の地点を(オ)点とし、同点から方位北西五十四度距離十二尺の地点を(ク)点とし同点から方位南西三十六度距離四十五尺五寸の前記基点(ヤ)点に至る以上の各点を順次直線をもつて連結した線内の地域につき、第一審原告(角田なゝ江)に対し、建物の所有を目的とする賃借権を有しないことを確認する。

第一審原告(角田なゝ江)のその余の請求を棄却する。

第一審被告(マコト商工株式会社)が、飯田市銀座四丁目一番宅地の内右第二項表示の(ハ)点から方位南東五十四度距離六尺の地点を(ロ)点とし、同点から方位北東三十六度距離二十七尺の地点を(キ)点とし、同点から方位北東四度、距離八尺五寸の地点を(タ)点とし、同点から方位南西三十六度距離十三尺三寸の地点を(レ)点とし、同点から方位北西五十四度距離六尺の地点を(ソ)点とし、同点から方位南西三十六度距離六尺の地点を(ツ)点とし、同点から方位北西五十四度距離六尺の地点を(ネ)点とし、同点から方位南西三十六度距離七尺八寸の地点を(ナ)点とし、同点から方位北西五十四度距離十一尺四寸の地点を(ム)点とし、同点から方位南西三十六度距離五尺九寸の地点を(ウ)点とし、同点から右第二項表示の(ホ)点を経て前記(ハ)点に至る以上の各点を順次直線をもつて連結した線内の地域につき、第一審原告(角田なゝ江)に対し、昭和二十三年一月一日を始期とする期間十年の建物所有を目的とする賃借権を有することを確認する。

第一審被告(マコト商工株式会社)のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その一を第一審原告(角田なゝ江)の負担とし、その余を第一審被告(マコト商工株式会社)の負担とする。

事実

本件については、当審昭和二十六年(ネ)第一九三号事件控訴人、同年(ネ)第二〇〇号事件被控訴人(原審昭和二十二年(ワ)第一〇号事件原告、昭和二十三年(ワ)第一号事件被告)角田なゝ江を第一審原告と略称し、当審昭和二十六年(ネ)第一九三号事件被控訴人、同年(ネ)第二〇〇号事件控訴人(原審昭和二十二年(ワ)第一〇号事件被告、昭和二十三年(ワ)第一号事件原告)マコト商工株式会社を第一審被告と略称する。

第一審原告訴訟代理人は、原判決を次のとおり変更する。第一審被告が、主文第二項表示の飯田市銀座四丁目一番及び同市本町一丁目二十六番宅地の内(ヤ)(マ)(コ)(フ)(ヱ)(カ)(ワ)(ハ)(ホ)(ヰ)(ノ)(オ)(ク)(ヤ)の各点を順次直線をもつて連結した線内の地域並びに主文第四項表示の同市銀座四丁目一番宅地の内(ホ)(ハ)(ロ)(キ)(タ)(レ)(ソ)(ツ)(ネ)(ナ)(ム)(ウ)(ホ)の各点を順次直線をもつて連結した線内の地域(別紙≪省略≫図面参照)につき、それぞれ第一審原告に対し、建物の所有を目的とする賃借権を有しないことを確認する。(但し右(ヱ)(カ)各点間の距離六尺とあるは八尺、(ホ)(ヰ)各点間の距離二十一尺四寸とあるは二十三尺九寸、(ヰ)(ノ)各点間の距離六尺五寸とあるは六尺九寸、(オ)(ク)各点間の距離十二尺五寸とあるは十二尺、(ロ)(キ)各点間の距離二十五尺とあるは二十七尺、(キ)(タ)各点間の距離十尺とあるは八尺五寸、(ナ)(ム)各点間の距離九尺四寸とあるは十一尺四寸の各誤りと認めて訂正する。原審鑑定人米山俊博((第一、二回))の鑑定の結果及び当審証人米山俊博の証言参照。)第一審被告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。との判決を求め、第一審被告訴訟代理人は、原判決を次のとおり変更する。第一審原告の請求を棄却する。第一審被告が、右第一審原告の請求趣旨と同一地域の宅地(前掲(ヤ)(マ)(コ)(フ)(ヱ)(ワ)(ハ)(ロ)(キ)(タ)(レ)(ソ)(ツ)(ネ)(ナ)(ム)(ウ)(ヰ)(ノ)(オ)(ク)(ヤ)の各点を順次直線で結んだ範囲内)五十七坪八合三勺につき、第一審原告に対し、賃料一ケ月金五十円毎月二十五日払、期間昭和二十一年七月一日より三十ケ年、堅固ならざる建物の所有を目的とする賃借権のあることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする、との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、第一審原告訴訟代理人において、第一審原告の夫角田由次郎(死亡前は原審における原告であつた)は昭和二十五年五月一日死亡し、第一審原告が遺贈により本件飯田市大字飯田字本町八百八十七番イ一宅地六十三坪及び同字八百八十八番宅地七十坪四合の所有権を取得したところ、その後昭和二十七年七月十六日土地区画整理の結果、右二筆の宅地の内前者は同市銀座四丁目一番宅地五十二坪二合九勺、後者は同市本町一丁目二十六番宅地六十八坪三合九勺と各町名、地番、坪数に変更があつた。第一審被告は第一審原告の請求の趣旨表示の土地につき建物の所有を目的とする賃借権を有しないのにかかわらず、これを有するもののごとく主張するから、第一審被告にかかる賃借権の存しないことの確認を求めるものである。と述べ、第一審被告訴訟代理人において、第一審原告がその主張のように遺贈により本件宅地二筆の所有権を取得したこと、及び第一審原告主張のように土地区画整理の結果、同宅地の町名、地番、坪数に変更のあつたことは認める。原判決の事実摘示中第一審被告の主張として、飯田市大字飯田字本町八百八十七番イ一宅地及び同字八百八十八番宅地内の(ヱ)(ワ)各点間の距離二十四尺とあるは二十六尺、(ロ)(キ)各点間の距離二十五尺とあるは二十七尺、(キ)(タ)各点間の距離十尺とあるは八尺五寸、(ナ)(ム)各点間の距離九尺四寸とあるは十一尺四寸、(ウ)(ヰ)各点間の距離十八尺とあるは十八尺五寸、(ヰ)(ノ)各点間の距離六尺五寸とあるは六尺九寸、(オ)(ク)各点間の距離十二尺五寸とあるは十二尺の各誤りにつき訂正する。と述べた外は、いずれも原判決事実摘示記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

〈証拠省略〉

理由

第一、第一審原告の請求について。

第一審原告の亡夫(死亡前には原審原告たりし者)角田由次郎(以下単に角田由次郎又は由次郎と略称する)が、昭和二十年四月十五日訴外信産商事株式会社から、当時の飯田市大字飯田字本町八百八十七番イ一宅地六十三坪及び同字八百八十八番宅地七十坪四合の本件宅地二筆(以下地番はすべて土地区画整理前の上記の表示を用いることとする)を、その地上にあつた建物二棟とともに買受け、その所有権を取得した事実、右建物二棟が昭和二十二年四月二十日飯田市の大火により焼失した事実、その後同年五月二十四日頃第一審被告が右八百八十七番イ一宅地上に木造板葺平家建仮設店舗一棟建坪約七坪九合を建設した事実並びに第一審被告が右二筆の宅地の内前者約二十五坪、後者約三十九坪三合につき、賃借権を有することを主張して、同年五月二十七日長野地方裁判所飯田支部に対し角田由次郎を被申請人とし、土地立入禁止等の仮処分の申請をなし(同庁昭和二十二年(ヨ)第八号仮処分申請事件)翌二十八日これが仮処分命令を得てその執行をした事実は、いずれも当事者間に争がない。

ところで第一審原告は、前記二筆の宅地上には第一審被告において一合一勺と雖も賃借権を有していないのに拘らず第一審被告は、前記二筆の宅地の内別紙図面表示の(ヤ)(マ)(コ)(フ)(ヱ)(ワ)(ハ)(ロ)(イ)(テ)(タ)(レ)(ソ)(ツ)(ネ)(ナ)(ム)(ウ)(ヰ)(ノ)(オ)(ク)(ヤ)の各点を順次直線で結んだ範囲六十九坪五合三勺(右仮処分執行の土地を含む)については、昭和二十一年六月十日頃角田由次郎との契約により、その地上の建物の賃借権とともに土地の賃借権を取得した旨主張するから、本訴において第一審被告が右土地につき建物の所有を目的とする賃借権を有しないことの確認を求めるというので、果して第一審被告と角田由次郎との間に建物の所有を目的とする賃貸借契約が成立したか否かについて審按する。

第一審被告が前記六十九坪五合三勺の宅地につき堅固ならざる建物の所有を目的とする賃借権を有する旨主張し、現に第一審原告に対しこれが確認を訴求していることは、弁論の全趣旨から明らかであり、その主張するような賃貸借の成立を証するために、乙第一号証(昭和二十一年六月三十日附契約書)を提出し、第一審原告は同証の成立は認めたが、右契約書は角田由次郎と第一審被告会社の代表者である石田省一とが通謀して作成した虚偽の契約書である旨抗争するが、もし右乙第一号証が真実有効に成立したものとすればその記載内容からみて第一審被告主張どおりの事実を証すべき有力な証拠資料であると解せられるから、まず右乙第一号証の契約書が真実に合致して作られたか否かについて判断するに、成立に争のない甲第一号証、第二、三号証の各一、二、第四号証、第九号証、第十三号証の一、二、第十四号証の五、第十五号証の一、四及び十(十は一部)、乙第十号証、(第三回公判調書中の証人真山節子の証言記載部分)、第十八号証、第二十七号証の一、三、四、六、第二十八号証の一、二、第三十号証の三、四、当審証人佐藤明の証言によつてその成立の認められる甲第十六号証、第二十一号証の一、二、原審及び当審証人佐藤明(原審は一部)、同証人角田太喜男(当審は一部)、当審証人原蔦(一部)の各証言、原審における原告角田由次郎(第二回)、当審における第一審原告角田なゝ江の各本人尋問の結果、原審における検証の結果を総合し、本件弁論の全趣旨を斟酌し、且つ前掲乙第一号証を参照すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、前述の角田由次郎が訴外信産商事株式会社から本件宅地とともに買受けた建物二棟とは、(イ)前同所八百八十八番宅地及び八百八十七番イ一宅地所在、家屋番号本町通り第一号、木造亜鉛メツキ鋼板葦平家建店舗一棟建坪三十三坪、(ロ)同八百八十七番イ一宅地所在、家屋番号銀座通り第三八号、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗四戸建一棟建坪二十八坪であつて、その買受当時(イ)の建物は訴外有限会社飯田合同タクシーが賃借占有し、(ロ)の建物については、その南端の一戸(間口一間半)は訴外原貞次、その北隣の一戸(間口二間)は訴外松島茂、その北隣の二戸(間口二間と三間)は角田由次郎がそれぞれ賃借占有していたが、由次郎は別に近くの同所八百八十七番ロ宅地所在建物(間口四間半)を訴外桜井八郎から借受け、主としてここで時計類の販売及び修理業を営んでいた。しかもその建物の裏手が本件八百八十八番宅地に接していたので、由次郎は訴外信産商事株式会社から、その空地を借受け台所(勝手)を建設して使用しており、訴外原、松島等も同番のその他の空地を借受け、それぞれ物置小屋を所有してこれを使用していた。そして角田由次郎が訴外信産商事株式会社から前記宅地建物を買受けたのは、同訴外会社から従来の賃借人に対し各自その賃借部分の土地建物を買取られたい旨の申出があつたが、資金等の関係もあつて由次郎が他の賃借人の了解のもとに一括してこれを買受けたものであり、且つ右訴外会社からの要望もあつて、由次郎は訴外原、松島等に対し従前通りの条件で引続きこれを賃貸した。ところが昭和二十年十一月頃になつて角田由次郎は、その台所の裏手、同八百八十八番宅地の西南端に座敷一室を建増そうとし、右空地の賃貸借には従前から、二週間の期間をおいて明渡を求められた場合には賃借人はこれを明渡すべきことの特約があつたので、訴外原、松島等に対し、同年十二月末までに前記物置小屋を撤去してその敷地を明渡されたい旨申入れたところ、同訴外人等においても、別にこれに対し異議を申出でず、右申入を諒承したものの如くであつたが、翌二十一年一月になつてもその物置を撤去する様子がないので、由次郎は、その空地の地代の受取を拒みつつ再三物置小屋の撤去方を督促し、同年七月からは賃貸建物の賃料の受取をも拒絶したところ、訴外原、松島等は、由次郎において空地のみならず賃借中の建物の明渡をも請求する意向であると解して、同年八月三日飯田区裁判所に由次郎を相手方とし借地借家調停の申立をなし、同事件は同庁昭和二十一年(ユ)第八号借地継続調停申立事件として受理せられ、同年九月九日第一回調停期日が開かれることとなり、その呼出状が同年八月六日由次郎に送達せられた。これより先昭和二十年七月頃、角田由次郎は現在第一審被告会社の代表者である石田省一(以下単に石田省一又は石田と略称する)と知合となつたが、当時石田はその経営に係る八洲航空工業株式会社(飯田市外上郷村所在)の事務所を飯田市内に物色しており、由次郎にもその斡旋方を依頼していた。その後間もなく終戦となり、同会社は信濃農機株式会社と改称せられ、事業も農業機械器具等の製造に切り換えられたが、たまたま昭和二十一年五月頃、由次郎が訴外日本タイプライター株式会社に賃貸していた前記(ロ)の建物の内、北側の二戸が空家となつたので、その内北から二戸目の一戸を賃料一ケ月金五十円の約で石田に賃貸した。石田はここで前記信濃農機株式会社とは別個に農機具等の販売を営むこととなり、由次郎も北側の一戸に眼鏡時計等の販売店を開き、ここに商品陳列棚及び大型置時計等の什器を搬入したところ、石田は由次郎に対し、各自の営業を共同事業として経営することを申入れ、更に同事業は会社組織とすることが得策であると力説し、由次郎の賛同を得て、昭和二十一年六月二十七日農機具等の製造修理売買並び鉄鋼類及び貴金属類の売買等を目的とし、資本金十二万五千円、石田省一を取締役社長、角田由次郎を専務取締役とする第一審被告会社が設立せられた。かくて、同会社は同年七月十四日からその営業を開始したが、由次郎は当時、石田が実は韓国人であつたのを、その女婿の訴外瀏進雄と同国の中国人であると信じ、且つ第三国人が羽振をきかせていた頃であつたので、同人に絶大な信頼をかけ、将来この事業が進展した場合には、同会社の建物を三階建に改築し、裏手の空地に工場等を建設すべきことの構想を、石田と話合つたこともあつた。なお由次郎は当初石田に対し、前記(ロ)の建物の内北から二戸目の一戸を一ケ月金五十円の約で賃貸したのであつたが、第一審被告会社が設立されるに及んで、同建物の北側の一戸も加えこれを同額の賃料で、また前記商品陳列棚等の什器を損料一ケ月金百円で、それぞれ第一審被告会社に貸与することにした。ところで角田由次郎は当時前述のように訴外原、松島両名から借地借家調停の申立があり、飯田区裁判所から調停期日の呼出状が来たので、同年八月頃前記のように信頼しており且つその口吻から相当法律上の知識を有するものと思つていた石田省一に、本件土地建物取得の経緯並びに訴外原、松島等に対する賃貸事情を話してその善後措置について相談したところ、石田は訴外原、松島等に借地権を認めることは宅地の価値を無くするに等しいから、極力これを拒否すべきであると説き、なお訴外信産商事株式会社から、同訴外人等が同会社に差入れてある賃貸借に関する書類を貰つて来て、従前の賃貸借の内容を検討すべきであると助言したので、由次郎はその子太喜男とともに右訴外会社に行き、同会社支配人佐藤明に対し、訴外原、松島等との間に裏の空地のことにつき紛争が起きたので、本件土地建物についての従前の貸借関係を知りたいから、同訴外人等が差入れてあつた賃貸借に関する書類を貰い受けたい旨申入れ、訴外佐藤明から、その関係書類七、八通を貰い受けて来た。元来本件宅地上の当時の建物は、大正十一年の飯田の大火直後訴外株式会社信産銀行が、奥行において二間四尺という簡易な店舗を建築して従前の借家人に賃貸し、各借家人等に自費をもつてその奥に若干の建増をすることを許容していたものであつたが、由次郎等が貰い受けて来た右書類中の訴外原、松島両名が同訴外銀行に差し入れた家屋賃貸借契約書(物件表示のため各略図が添付されている)には、訴外原の分の建物は間口一間半、奥行二間四尺、訴外松島の分の建物は間口二間、奥行二間四尺と記載されていて、建増部分については何等の記載がなかつたところ、石田は右契約書を見て、これには建物の奥行二間四尺とあるから、それ以上の建物部分の敷地は不法占拠である、また同八百八十八番の空地は単に賃貸するとだけあつて、別に物置小屋設置のためとか又は薪炭置場のためとか記載してないから、物置小屋を設置したり薪を置いたりするのは土地の不法占拠であるから撤底的に明渡させなければならないと説き、調停期日には介添として裁判所に同行することを約した。そこで由次郎は同年九月九日の第一回調停期日にその女婿瀏進雄及び石田省一と同道して裁判所に出頭した。しかし、石田は、調停主任判事から調停室に入ることを拒まれたので憤慨し、同判事との間に一悶着を起したが、前述のように由次郎との間に、将来会社の建物を改築し裏手に工場等を建設することの構想を話合つたことがあつたので、後刻同判事に面会し、第一審被告は本件宅地につき賃借権を有するものであるから、本件調停事件に利害関係がある旨述べたところ、同判事から、利害関係があるなら、訴外原、松島両名に対し別に調停の申立をなすべきであり、申立があれば両事件を併合して調停を進めることにする旨諭されたので石田もこれを諒承し、同日司法書士訴外伊藤与三郎に依頼して第一審被告から訴外原、松島両名を相手方とし角田由次郎を利害関係人とする左記要旨の借地調停申立書を作成せしめ、且つ同会社の使用人原蔦の作成した図面に、訴外原、松島等の占有する店舗中各奥行二間四尺以外の部分と、八百八十八番空地中の物置小屋のある部分及び薪を置いてある部分は、右両名の不法占拠の部分であるとし特に赤色をもつて表わし、これを右調停申立書に添付して翌十日飯田区裁判所に提出し、同事件は同庁昭和二十一年(ユ)第一三号土地建物賃貸借契約承認等調停申立事件として受理せられ、前記昭和二十一年(ユ)第八号調停申立事件と併合せられ、同年九月三十日調停期日が開始せられることとなつた。

調停申立要旨

(一)  申立会社は昭和二十一年七月一日利害関係人角田由次郎所有の

飯田市大字飯田字本町八百八十七番地イ一

一、木造亜鉛葺平家建店舗建坪十坪

同所同番地イ一

一、木造亜鉛葺平家建店舗建坪八坪二合五勺

同所八百八十八番宅地の内

一、宅地三十九坪三合三勺三才

を賃借した。

(二)  右賃借物件の内宅地三十九坪三合三勺三才は、以前相手方松島茂、同原貞次及び利害関係人由次郎等において共同して株式会社信産銀行より賃借したものであるが、昭和二十年中利害関係人由次郎が同銀行より買受け、昭和二十一年一月相手方等に解約の申込をしたので、相手方等は右利害関係人にこれを明渡すべきものである。

(三)  然るに相手方等は、右宅地の内に物置を造りその他種々の工作物を施し使用しているのみならず、空地の部分を占有して申立人の使用を許さない。

(四)  申立人は相手方等に対し紳士的に交渉を試みたが、さらに応ずる気色がないので、相手方において、申立人と利害関係人との間の右宅地建物の賃貸借契約を承認し、前記宅地及び八百八十七番イ一宅地内にある相手方所有の工作物一切を収去し、なお空地の部分については何時でも申立人の使用を妨げないことの調停を求める。

右のように石田省一は右調停申立において、本件土地建物につき第一審被告と角田由次郎との間に賃貸借契約のあることを主張しているので、前記由次郎及び訴外原・松島間の調停を由次郎側に有利に解決するためには、形式的に契約書を作成して置く必要があるとして、由次郎に勧めて急遽右土地建物についての賃貸借契約書を作ることとなり同年九月中(同月十日より三十日までの間)由次郎方に由次郎、その長男太喜男、石田省一等が会して、訴外信産商事株式会社から貰い受けた前記の書類等を参酌し、主として石田の指示にもとずき、太喜男が右書類に顕われたあらゆる土地建物を書き込み、作成日附を遡らせて同年六月三十日とし、角田由次郎と第一審被告との間に第一審原告主張の条項による虚偽の契約書(乙第一号証)を作成したことが認められる。現に右契約書の記載内容を仔細に検討してみても、その賃貸借の目的である宅地の地番が飯田市大字飯田八百八十七番地、同番地イ号及びイ号の一、同所八百八十八番地(三筆となる)とあるが、第一審被告主張の賃借地は同所八百八十七番イ一及び同所八百八十八番の二筆であるから、その地番の表示において真実に符合したいものがある。また賃貸借の目的である建物につき同所八百八十七番イ号敷地三棟及びイ号一の敷地建物二棟とあるが、前述のように角田由次郎はその当時同所八百八十八番宅地及び八百八十七番イ一宅地に跨り建物一棟、同所八百八十七番イ一宅地上に建物一棟を所有していたに過ぎないから、これまた真実に合致しないものと言わなければならない。また賃貸料は一ケ月金百五十円とするとあるけれども角田由次郎が第一審被告に対し当初前記八百八十七番イ一宅地上の建物((ロ)建物)の北側二戸を賃料一ケ月金五十円商品陳列棚その他の什器を損料一ケ月金百円と定めて貸与したことは、前認定のとおりであつて、右両名間に本件土地建物の賃料を一ケ月金百五十円とする契約のあつたことは右契約書の記載を措いては他に証拠がない。これらによつて見ても、乙第一号証の契約書は極めて杜撰なものであつて、第一審被告主張のように第一審被告会社設立の因をなした真実の契約書とは到底首肯することができない。

以上認定したところに照らし、これと牴触する成立に争のない乙第二号証の五の(ハ)(証人角張幸子調書)、同第十一号証(第四回公判調書中の証人角張幸子の証言部分)、甲第十五号証の七(石田省一聴取書)、同九(被告人石田省一公判調書)、同十(被告人石田省一第二回公判調書)中の各記載部分、原審証人佐藤明、当審証人角田太喜男、同原蔦、同角張幸子の各証言部分並びに原審(第二回)及び当審における第一審被告会社代表者石田省一の供述部分はいずれも措信することができない。また成立に争のない乙第十四号証(証人奥山八郎調書)には、訴外奥山八郎弁護士は昭和二十一年六月末(但し同月三十日以前)に乙第一号証の契約書を東京の自宅において石田省一から示されて見たが、その初めの方に賃貸期間が五ケ年とあつて、終りの方に六ケ月の予告をもつて解約ができることになつていることと、日附が未到来の六月三十日となつていることに不審を懐き、石田にこれを訊したことがある旨の供述記載があるが、又同証によれば奥山弁護士は石田とは眤懇の間柄で当時ほとんど毎月石田が上京の都度その訪問を受けていたが、乙第一号証の契約書も石田が上京訪問の際雑談の間に示されたものであつて、特にその契約書につき法律上の鑑定を求められたわけでもなく、また石田と角田由次郎間に本件土地建物についての紛争が生じた後に示されたものでもないことが明らかであるから、奥山弁護士において、右契約書の内容を詳細に検討したものとは思われないので、奥山弁護士の右前段の供述は、前示の各措信し得べき証拠を参酌すれば、人にはよくあり勝ちな過去の記憶が前後して、昭和二十一年六月三十日以前に乙第一号証の契約書を見たという錯覚に陥つたものか、もしくは石田が作成した契約書の原稿を見たもの(原審証人角田太喜男は乙第一号証の原稿は後で聞けば石田が東京から持つて来たとのことであつた旨供述している)とも推せられるから、右乙第十四号証中の前記記載部分はこれを採用しない。なお成立に争のない乙第九号証(安藤弘証明書)、同第十三号証(第五回公判調書中証人浜本強一の証言部分)当審証人原蔦の証言中の乙第一号証の作成日時をうかがわしめるような各部分は前掲各措信し得べき証拠に照らして措信しがたく、更に成立に争のない乙第二号証の一、二(但し下方の専務、監査役、発行者を抹消し係、記帳、としてある各押印欄を除く。第一審原告は先に同証の成立を認めながら、後に右自白を撤回しその成立を否認する-記録一三二〇丁裏-と述べたが、当審証人角田太喜男の証言により同証は右押印欄を除き、その形式的成立が認められ、右自白は事実に反するものと言い得ないから、錯誤によると否とにかかわらず、少くとも、この部分の成立についての自白の撤回は許されない。)の領収書の一には「七月分家賃空地及び什器代」「昭和二十一年七月三十日」二には「八月分空地家賃及び什器代」「昭和二十一年八月三十日」との記載あり、角田由次郎と第一審被告間に乙第一号証の契約書所載の空地についての賃貸借が成立したことを疑わしめるものがあるが、成立に争のない乙第三号証(領収書)と対照し、且つ前掲証人角田太喜男の証言(前記措信しない部分を除く)によれば、右乙第二号証の一、二は昭和二十一年九月中由次郎と石田省一との談合の上で乙第一号証に対応せしめるために作成したもので、実質は従前の契約による家賃及び什器の損料に外ならないものと解せられるから、同証の一、二も前段認定を左右するに足りず、また成立に争のない乙第十九号証、原審証人堀田菊次郎、原審及び当審証人久保田正吉の各証言、同証人久保田正吉の証言によつてその成立の認められる乙第四号証を総合すれば、昭和二十一年十月頃第一審被告が訴外久保田正吉に依頼して、本件宅地の内同所八百八十八番地上に工場を設置することの許可及び工場建築の申請を長野県知事になしたところ、同年十二月十一日同知事からこれが許可及び認可のあつたこと、右宅地の空地部分だけでは狭少で工場設置の許可を受けることが出来ないので、角田由次郎方の台所の敷地及び由次郎が訴外飯田合同タクシーに賃貸中の宅地の一部をも工場敷地であるとし形式を整え、その認可を得たもので、しかもその認可があり、市より認可書の受領方の通知を受けても、これが受領に行かず、市の依頼により訴外久保田正吉において、第一審被告にこれが受領方を促した事実が認められ、この事実を前掲乙第十八号証の記載に照らして考えれば、由次郎及び第一審被告間においては、前記調停申立事件を由次郎側に有利に導くため、乙第一号証の契約の真実であることを裏付けるものとして、必要の場合に調停委員会等に提出するため、真実工場の設置の意思なく、前記工場設置許可及び建築の申請をしたものと認定できるから前掲乙第四号証、第十九号証並びに右申請についての前掲証人堀田菊次郎、同証人久保田正吉の各証言も、前段認定を妨げるものではない。その他第一審被告提出援用の全証拠によるも該乙第一号証の効力についての前段認定を覆すに由ない。

これを要するに乙第一号証は、前述のような経緯のもとに角田由次郎と訴外原貞次、同松島茂間の借地継続調停申立事件を、由次郎側に有利に解決するために、由次郎と第一審被告代表者たる石田省一とが通謀して作成した虚偽仮装の契約書であると言うべく、本件宅地二筆につき第一審被告と角田由次郎との間に賃貸借契約が成立した旨の第一審被告主張事実の認定の資料に供しがたい。

そして、他には右賃貸借の成立したことを認め得べき適確な証拠はなく、却つて成立に争のない甲第十五号証の二(木下信聴取書)によれば、前記調停申立事件の最終回に近い調停委員会において、訴外原、松島等は角田由次郎に対し、その要求の小屋は撤去するが、荷物の置き場に困るから、他に小屋を造る場所を貸して欲しい旨の要求を出し、由次郎がこれに応じ同訴外人等に対し新に小屋を造る場所を指定したところ、石田は由次郎に対し原、松島等に小屋を造る場所を貸すのなら、自分にも借家の広さの割合で土地を貸与せられたい旨申出でたことが認められるから、むしろ第一審被告主張のような賃貸借が角田由次郎との間に成立しなかつたことを窺わしめるに足る。

しかし第一審被告は、第一審被告が角田由次郎から賃借していた前記八百八十七番イ一宅地所在の(ロ)の建物の内北部二戸の敷地につき、罹災都市借地借家臨時処理法(以下単に臨時処理法と略称する)にもとずき賃借権を取得した旨抗争するにつき更に按ずるに、第一審被告が右二戸の建物を昭和二十一年六月下旬頃角田由次郎から賃借し引続き使用していた事実、同建物が昭和二十二年四月二十日飯田市の大火の際焼失した事実は、いずれも当事者間に争なく、臨時処理法が同年十二月十日法律第一六〇号によつて同日から飯田市の大火につき同市に適用せられたことは第一審被告の言うとおりである。而して第一審被告が角田由次郎から賃借し、右飯田市の大火で焼失するまで店舗として使用していた前示(ロ)の建物の北部二戸の敷地が、第一審被告主張のとおり、前顕八百八十七番イ一宅地の内(ハ)(ロ)(イ)(テ)(タ)(レ)(ソ)(ツ)(ネ)(ナ)(ム)(ウ)(ハ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の地域であることは、第一審原告において明らかに争わず他の陳述からこれを争わんとする意思も顕われないから、これを自白したものとみなすべく、第一審被告は右のうち、都市計画に編入せられる部分として、右宅地の内(ロ)点より方位南東五十四度距離十尺の地点を(イ)点とし、同点より方位北東三十六度距離三十三尺の地点を(テ)点とし、(ロ)(イ)(テ)(タ)(キ)(ロ)の各点を順次直線で結んだ地域-別紙図面参照-を除いた部分につき、焼失建物の敷地の優先賃借権を主張しているから、以下建物敷地としては、右宅地の内(ハ)(ロ)(キ)(タ)(レ)(ソ)(ツ)(ネ)(ナ)(ム)(ウ)(ハ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の地域を指すものとする。

当審証人佐々木久尚の証言、同証言により成立の認められる甲第十七号証(佐々木久尚の謝罪書)並びに成立に争なき甲第二十二号証(証人佐々木久尚調書)の一部を総合すれば、昭和二十二年五月初め訴外佐々木久尚は、石田省一の代理として角田由次郎を訪ね、第一審被告に対し焼失前の店舗(即ち(ロ)の建物の内北部二戸)の敷地を貸して貰いたい旨を申入れたが、そのときは断わられた事実が認められ、また第一審被告が同月二十四日同敷地内に仮設店舗一棟を建築し、次いで同月二十八日右土地を含む同八百八十七番イ一及び八百八十八番宅地につき賃借権のあることを主張して、角田由次郎に対する立入禁止の仮処分命令を得てこれが執行をしたことは、当事者間に争なく、しかも第一審被告がその後も引続いて角田由次郎に対し右宅地につき、その成立原因はともかくとして賃借権のあることを主張していることは、本件弁論の全趣旨によつて明らかであるから、第一審被告は右臨時処理法が飯田市に施行せられた昭和二十二年十二月十日において、暗黙に前記賃借部分の建物の敷地につき角田由次郎に対し、同法による建物所有を目的とする賃借の申出をなしたものと判定するのを相当とする。一方また角田由次郎が第一審被告に対しその後三週間内に賃借申出を拒絶する態度をとつていたことは弁論の全趣旨から明かに窺われる。

第一審原告は、角田由次郎が第一審被告に対し右賃借の申出を拒絶したことについては次のような正当の事由がある、すなわち本件宅地二筆の内銀座通りに面して商業を営み得る部分は、僅かに間口七、八間奥行二、三間に過ぎないから、その内数坪を第一審被告に貸与するとすれば、由次郎は終生飯田市大火前の商勢を挽回することができないのみならず、長男次男次女等最近独立して営業をしなければならない子女を多く有しているので、何人にも右宅地を貸与し得ない実情にあると主張するので按ずるに、原審鑑定人米山俊博の鑑定の結果(第一、二回)によれば、本件八百八十七番イ一宅地の銀座通りに面する部分(八百八十八番宅地は同通りに面していない)は間口十間であつて、その内第一審被告の賃借していた建物の敷地の間口は五間半であることが認められるから、角田由次郎が、第一審被告に対しその敷地部分を貸与するとすれば、残るところは間口四間半に過ぎず、その地上に建物を建築するとすれば、その建物の間口は原則として四間を越えることができない。しかも前認定のように、由次郎は訴外桜井八郎から間口四間半の建物を賃借して営業していたのであるから、その建物の間口において多少縮少せられることを免れない。また成立に争のない乙第十八号証(告訴補充調書)によれば、由次郎が長男太喜男(二十二歳)三女美佐江(十九歳)次男俊実(十七歳)の外二男一女を擁しているが認められる。しかし由次郎が新たに建築できる建物の間口が旧営業所の建物のそれに及ばないとしても、前述のように右宅地は相当の奥行があるのであるから、間口の縮少は奥行の伸長によつて補い得るものと言うべく、また長男太喜男が父由次郎の後継者としてこの地において時計類の販売並に修理業を営むものとしても、三女美佐江、次男俊実その他の子女が独立してここに商業を営むであろうこと、もしくは営まねばならないとする事由を認め得べき何らの証拠がない。なお由次郎が前記(ロ)の建物の北部の二戸において洋品類の特売部を設けて営業をしていたことを認めるに足りる証拠なく、右建物の北端の一戸において眼鏡時計等の販売店を開いたことは前認定のとおりであるが、それは極めて短期間であつたから、由次郎の飯田市大火前の商勢を判断する資料となすに足りない。その他第一審原告の提出援用にかかる全証拠によつても、その主張事実を認めることができないのみならず、却つて成立に争のない甲第十五号証の五、原審証人青島愛二、同堀保麿の証言によれば、昭和二十二年五月下旬第一審被告がその賃借建物の焼跡地にバラツクを建築したことから、角田由次郎との間に紛争を生じ、飯田市罹災者復興連盟会長青島愛二等の仲裁により示談をすることとなり、由次郎が第一審被告に対し右建物敷地を含む間口、興行各四間の十六坪を一坪二千二百五十円の割にて売却することを約したことが認められ、(もつとも右示談契約は第一審被告において買掛代金の精算をすることを前提とするものであつたが、その精算が遂げられなかつたため、履行せらるるに至らなかつた)この事実から見れば、角田由次郎が第一審被告の右賃借の申出を拒絶するにつき正当の事由がなかつたものと断ずるを相当とする。従つて第一審被告の前記優先賃借の申出はその効を生じ、前記焼失建物の部分の宅地については、第一審被告が賃借権を取得したこととなり、この部分についての第一審原告の本訴請求は失当として棄却を免れない。

そして角田由次郎が昭和二十五年五月一日死亡し、その妻であつた第一審原告が遺贈により本件飯田市大字飯田字本町八百八十七番イ一宅地六十三坪及び同字八百八十八番宅地七十坪四合の所有権を取得したこと、昭和二十七年七月十六日土地区画整理の結果前者は同市銀座四丁目一番宅地五十二坪二合九勺、後者は同市本町一丁目二十六番宅地六十八坪三合九勺と各町名、地番、坪数に変更のあつたことはいずれも当事者間に争がないから、第一審原告の本訴請求中右棄却を免れない部分を除き、飯田市銀座四丁目一番及び同市本町一丁目二十六番宅地の内主文第二項表示の地域(別紙図面参照)につき第一審被告において建物の所有を目的とする賃借権を有しないことの確認を求める限度において、その請求は正当として認容すべきものとする。

第二、第一審被告の請求について。

一、第一次請求原因として、第一審被告は昭和二十一年六月十日頃角田由次郎との間に、旧飯田市大字飯田字本町八百八十七番イ一宅地及び同字八百八十八番宅地の本件二筆の宅地の内前掲(ヤ)(マ)(コ)(フ)(ヱ)(カ)(ワ)(ハ)(ロ)(イ)(テ)(タ)(レ)(ソ)(ツ)(ネ)(ナ)(ム)(ウ)(ヰ)(ノ)(オ)(ク)(ヤ)の各点を順次直線をもつて連絡した線内の地域六十九坪五合三勺につき、建物所有を目的とする賃貸借契約を締結してその賃借権を取得した旨主張するけれども、右主張事実を肯認し得ないことは、前記第一の第一審原告の請求についてすでに説示したところによつて明らかであるから、この点についての右説示の記載をここに引用する。従つて右賃貸借契約の成立を前提とする第一審被告の第一次の請求は失当であるから、これを棄却すべきものとする。

二、第二次請求原因について。

第一審被告が、前記飯田市大字飯田字本町八百八十七番イ一の本件宅地の内前記(ハ)(ロ)(キ)(タ)(レ)(ソ)(ツ)(ネ)(ナ)(ム)(ウ)(ハ)の各点を順次直線をもつて連絡した線内の地域につき、角田由次郎に対し、少くとも昭和二十二年十二月十日臨時処理法にもとずいて建物所有の目的で賃借の申出をなしたものとみとめらるべきこと、由次郎が右申出に対し拒絶の意思を表したが、これを拒絶するにつき正当の事由があるものと認められないことは、いずれも前記第一の第一審原告の請求について判断したとおりであるから、この点についての右判断の理由の記載をここに引用する。従つて第一審被告の右賃借の申出は臨時処理法第二条により同年十二月十日より三週間の経過によつて承諾せられたものとみなされ、第一審被告は前記土地につき昭和二十三年一月一日を始期とする建物所有を目的とする賃借権を取得したものと言うべきである。なお第一審被告は右賃借権の存続期間は三十年、賃料は一ケ月金五十円毎月二十五日払である旨主張するが、その賃借権の存続期間は同法第五条によつて、借地法第二条の規定にかかわらず十年と定められているから、十年を超える部分の主張は失当である。またその賃料について当事者間に争のあることは、本件弁論の全趣旨からこれを窺い得るところ、賃借条件の紛争については当事者の申立により、裁判所が非訟事件手続法によつて裁判すべきものであることは、臨時処理法第十五条、第十八条の規定によつて明らかであるから、本訴においてその確認を求めるのは失当である。従つて第一審被告の本訴第二次の請求のうち、右土地につき昭和二十三年一月一日を始期とする期間十年の建物所有を目的とする賃借権を有することの確認を求める限度においては正当としてこれを認容すべきも、その余は失当であるから、これを棄却すべきものとする。

以上認定のとおりであつて、原判決は当裁判所がここに言渡すべき判決と一部符合しない点があるから、民事訴訟法第三百八十四条、第三百八十六条に則りこれを変更すべきものとし、訴訟費用については、同法第九十六条、第八十九条、第九十二条本文により、総費用を三分し、その一を第一審原告、その余を第一審被告をして各負担せしむべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)

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